スラムダンクという作品は面白いのかと言えば、言うまでもなく面白いと思っています。
この作品の特徴はどこにあるのかと言えば、
人間の成長にあると思います。
基本的にどんな漫画も主人公の成長についてはある程度掘り下げるものです。
しかしこの作品はそのほかの作品よりも人間の成長にフォーカスして、読んでいる人間がその成長に後押しされる感じで、読み進めることが出来る漫画だと思っています。
この作品のすごいところは売り上げが一つあります。
累計売上は、1億2000万部。これはスポーツ漫画の中で一番売れているとされています。
ちなみに歴代で最も売れている漫画の中では8番目であり、1位はワンピース4億8000万、2位はゴルゴ13、2億8000万、3位はドラゴンボール2億6000万と続きます。
とはいっても、漫画で大事なのは売り上げではなく、面白さ。つまるところは中身がどれだけ充実しているか?になります。
このスラムダンクに関しては、間違いなく中身も充実している作品であり、むしろ井上雄彦という巨匠が生み出した遺作ともいえるのではないかと思います。
今回は恐れながらもこの作品についてレビューしていこうと思いますが、良ければ見て行ったください。
スラムダンクって面白いの?って質問が失礼になるぐらい面白いと思います。
スラムダンクが面白いかどうか?
そんな質問が野暮になるぐらいに今作品は面白い作品であると思っています。
スラムダンクという作品の面白さは、臨場感になると思っています。井上雄彦の実力によって選手の動きを殺さずに描き切る技術。それによって読んでいる人間は、実際に会場にいるような緊張感を味わえるのです。
止まっている人間を書くのが上手い人と、動いている人間が書くのが上手い人。漫画家には2種類いると思います。どちらにしてもすごいことには変わりありません。
しかし井上雄彦は両方ともに優れている、怪物的な漫画家なのです。
作中で学ぶことが出来るのは、普通のことをする凄さ。
いつの時代もすごい人というのは
すごいことをする人
なのだと思われがち、かと思います。
しかしながら、実際にすごい人とは普通のことを当たり前にこなし続けるからこそ、凄いのです。
イチロー、羽生善治、宇多田ヒカル。
この人たちはその世界のおけるレジェンドになると思いますが、実際のプレイや棋譜、それから歌声を聴いてみると、普通にヒットを打ったり、コマを動かしたり、歌を歌っているように感じます。
でもそれが他の人が到底及ばないような領域で行われているのです。
このスラムダンクもまさにそういった
「普通のことを高いレベルでする凄さ」
が随所に描かれている作品です。
リバウンドを制すものはバスケットを制する。
作中でも出てくるこのセリフはかなり印象的です。
ダンクや3Pシュートそういった派手なプレイはバスケットボールの花形であると言えます。しかしながら、試合の大局を制しているのはあまり日の目を見ることがないリバウンドであり、ここを支配することが出来れば、試合では圧倒的に有利になります。
バスケットはシュートを入れることも大事なのですが、「シュートを外した後にどれだけ健闘できるか?」もすごく大事なのです。
失敗をしても最終的に成功出来れば、問題はない。
そういったメッセージがくみ取れるような気がします。
そして、この言葉こそ、このスラムダンクという泥臭くも美しい作品を象徴する言葉ではないかと思います。
この考え方は横展開して考えられます。
リバウンドを制するものはバスケを制する
という言葉は、バスケット以外の分野でも使うことが出来ます。
例えば、ビジネスマンならば
朝を制するものは仕事を制する
といった風に置き換えることが出来ますし、
サッカーならば
トラップを制するものはサッカーを制する
と置き換えることが出来るのではないでしょうか。
どんな物事にも目立たないけど、そこを抑えてしまえば結果が180度変わってくる
ツボ
というものがあると思います。
スラムダンクはリバウンドというという、言葉でそのツボを表現したわけですが、この言葉を分解してみれば、自身の考え方に対しても、見えてくるところはあると思いますね。
練習することの大事さ。
練習することの大事さも教えてくれます。
桜木は作中においても、天才だと言われているシーンがあります。そういった所を見れば、天才の物語なように思いますが、この作品は
紛れもなく努力の物語です。
今これを書いている人間がも、桜木の才能が爆発するシーンのバックボーンにはいつだって血のにじむような努力があることを思い返してしまうのです。
才能とは努力なしには開花しない。
スーパーエースの流川でさえも、他の人間が見ていないところで鍛錬を積んでいる。みんな強くなるために、日々欠かさないのです。
他人より優れている人間は、何処かでやっている。
そんな当たり前のことを教えてくれるのが、スラムダンクなのだと思います。
スラムダンクの名シーン→山王工業戦。
スラムダンクという作品は非常に名シーンが多いと思いますが、その中でも数多くの名シーンが生まれているのは間違いなく山王工業戦だと思います。
山王工業とは、スラムダンクにおける最強チームです。高校生相手では敵なし。その実力は大学生を一蹴するほどです。
超高校級の沢北に、パワー、スピード、テクニック、あらゆる分野においてトップクラスの河田。選手としてオールラウンドにプレイをこなしながらも、黒子役に徹することが出来る深津。
それに加えて強者故のおごりもなく、試合前には湘南高校のビデオを穴が開くほどに見ていました。
まさしく、
獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くす
これを地で言っているチームなのです。
そういった所を見ても、湘南の勝率は限りなく低いとされていました。
でも、圧倒的な強敵と戦うからこそ、試合は緊迫感のあるものとなり読者も目が離せなくなるのです。僕はリアルタイムでスラムダンクを追えなかった人間ですが、当時連載していた人からすれば、毎週のジャンプは気になって仕方がなかっただろうな、と思いますね。
ちなみに山王工業戦は名シーンが多過ぎます。
一つだけ選べと言っても、山王工業戦からはいろいろな名シーンが思い出されてしまうので、一つに絞れません。
ただ一つ選ぶというのであれば
「おい……見てるか谷沢……お前を超える逸材がここにいるのだ……!! それも……2人も同時にだ」
ですね。
安西先生という、高校バスケットにおいて多くの選手を育て上げてきたキャラクターが改めて桜木花道という天才を認めて、その素質を評価する。それまでの桜木の努力を見てきたからこそ、鳥肌が立つシーンではないかと思います。
またベタですが、流川と桜木がハイタッチするシーンも良いですね。
それから、桜木のことを甘く見た相手が河田弟を桜木とマッチアップさせた結果、桜木の才能が一気に開花して、それが突破口になるところも好きです。
ただ、山王工業戦で多くの人が背中を押してもらえるところはゴリVS河田
赤木ことゴリがマッチアップする相手は河田という選手です。
この河田は異色の経歴を持っている選手で、山王工業入学時は身長が低かったので、センターではなくガード、そして身長が伸びるとともにフォワード、センターとポジションを変えて行ったのです。
そのため、引き出しが多くて色々な技を持っています。
作中では
華麗な技がある
デカくてうまい
高校最強のセンター
住む世界が違う
とも呼ばれていました。
そういった強敵に対して、赤木は勝負を挑むことになったわけです。
圧倒的な総合力の前に、自分の土俵で戦わせてもらえないゴリ。
ゴリは不器用な選手で、自分の土俵で戦えば実力を発揮して圧倒できる選手。
しかし、パワーもあって、スピードもあり、テクニックでもはるかに格上である河田の前ではあらゆる戦術が通用しません。
さらに河田はマッチアップするであろう赤木のデータも全て把握しており、必死で習得したスピンムーブでさえも抑え込んでしまいます。
精神的手中であった赤木が折れることは、湘北の負けを意味することになるワケです。
しかし、試合の途中で助言をするのは同じセンターである魚住です。魚住もまた、赤木と同じような不器用なセンターなのですが、そういった同業者だからこそ赤木に的確なアドバイスを送ることが出来るわけです。
「お前は鰈だ
泥にまみれろよ」
そこで自分がすべきこと、そして自分の戦い方を理解した赤木は息を吹き返したように、好プレーをするようになり湘北のセンターとして、河田ではなくチームを勝たせるセンターとして、機能し始めるのです。
人間結局、「自分が出来ること」をした方が強い。
人は意識しても、しなくても、自分の実力を過大評価しがちになると思います。
しかし、そういったおごりこそが戦いをする上で大きな誤算を生み、大敗を生み出すわけです。赤木という人間におごりはありませんでしたが、高校最強のセンターである河田に勝つために出来ないことをしようとしていました。
ただ、試合の途中で助言があったおかげで、息を吹き返すことが出来ました。
勉強とか仕事でも、同じことではないかと思います。
自分の実力を何処かで見誤ったせいで、痛手を負うことは人間往々にしてありますし、これを書いている人間もそういったことがよくあります。
でも、なんだかんだ上手くいくのは、謙虚になったときであり、物事と泥臭く向き合った時になるのだと思います。
スラムダンクという作品は芸術的だと思います。
最後に、スラムダンクはこういった人に向いていると思います。
- 井上雄彦について知りたい人
- 頑張りたい人
- 泥臭さが足りないと思う人
さきほども書いたのですが、作品を通して「地味に徹する凄さ」を教えてくれます。バスケットボールという一スポーツからここまで人間的な哲学に触れることが出来るのか?と、実感できる作品ですし、スポーツ漫画としても完成しています。
読んで損なし、というか、好きな人間からすれば「読まない方が損だ」と言える、完成された熱血漫画です。今は令和なのでこういったノリは古いのかもしれませんが、スポーツに限らずあらゆる物事に言える、
一つの物事を必死で頑張る美学
を取り入れることが出来ます。
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